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'''ブリルアン散乱'''(ブリルアンさんらん、ブリリュアン散乱、ブリュアン散乱とも)とは、光が物質中で[[音波]]と相互作用し、[[振動数]]がわずかにずれて[[散乱]]される現象のことである。名称は[[レオン・ブリルアン]]に由来する。
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'''ブリルアン散乱'''(ブリルアンさんらん、ブリリュアン散乱、ブリュアン散乱とも)
  
この散乱は[[水]]や[[結晶]]などの媒質中で光が密度変化と相互作用することによって生じる。この際、光の経路とエネルギー (すなわち周波数) が変化する。
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透明な固体または液体に単色光が入射したとき、物質中の音波によって散乱する現象。固体の場合、音子(フォノン)の中の、光学分枝による散乱をラマン散乱、音響分枝による散乱をブリュアン散乱として区別する。1922年フランスの物理学者ブリュアンによって予言され、1930年ソ連の物理学者E・グロスEvgenii Fedorovich Gross(1897―1972)によって実験的に確認された。ブリュアン散乱はラマン散乱と違い、散乱光の振動数が入射光の振動数からずれる大きさ<i>Δ</i>ωが物質の種類だけでは決まらず、散乱される方向によって変わる。すなわち、
散乱の要因となる密度変化は音響モードすなわち[[フォノン]]に由来するかもしれないし、磁気モードすなわち[[マグノン]]、あるいは[[温度]]勾配に由来するかもしれない。
 
媒質が圧縮されると[[屈折率]]が変化し、必然的に光路が変化することは[[古典物理学|古典的]]にも説明できる。
 
  
==定義==
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<i>Δ</i>ω=(2v<sub>s</sub>ωn/c)sin(θ/2)
[[量子力学|量子論]]の観点からは、 ブリルアン散乱は[[光子]]と音響/振動量子 (フォノン) または 磁気スピン波 (マグノン) または その他の光と相互作用する低周波数の準粒子との相互作用である。この相互作用はフォノン/マグノンが生成または消滅するような[[非弾性散乱]]過程 ([[ストークス]]遷移過程または[[アンチストークス]]遷移過程) からなる。
 
  
散乱光の[[エネルギー]]は入射光とわずかに異なり、ストークス遷移過程においては減少し、アンチストークス過程においては増加する。
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である。ここでωは光の角振動数、cは光速度、v<sub>s</sub>は音波の伝播(でんぱ)速度、nは光の屈折率、θは入射波と散乱波のなす角度である。ブリュアン散乱は、見方を変えれば、物質中の音波によって生じた疎密格子によって生ずるブラッグ回折現象と考えてもよい。レーザーの出現によって実験は容易になってきているが、v<sub>s</sub>はcに比べて非常に小さく、したがって<i>Δ</i>ωも非常に小さな量で、波長変化をしないレイリー散乱線からのずれは、干渉計を用いて区別できる程度である。ブリュアン散乱において、入射光の強度が非常に強くなると、散乱光の強度が急激に増大する。この現象は誘導ブリュアン散乱とよばれる。
 
 
ブリルアンシフトとして知られるこのエネルギーの変化は相互作用しているフォノン/マグノンのエネルギーと等しいため、ブリルアン散乱はこれらのエネルギーの計測法として使うことができる。ブリルアンシフトは普通[[ファブリ・ペロー干渉計]]をもとにしたブリルアン[[分光計]]によって測られる。
 
 
 
==ラマン散乱との関係==
 
ブリルアン散乱と[[ラマン散乱]]は両者とも光と準粒子の非弾性散乱を表現しているという点で似ているが、周波数変化の幅と試料から引きだせる情報において差異がある。
 
ブリルアン散乱というと準粒子による光子の散乱を意味するが、一方ラマン散乱は分子の振動・回転状態の遷移によって光子が散乱されることを意味する。
 
 
 
それゆえ両者が試料から引きだす情報は大いに異なっている。
 
ラマン分光法は化学組成や分子構造を決定するのに用いられるが、対してブリルアン散乱ではより大きなスケールでのふるまい、たとえば弾性現象などを調べることができる。
 
実験的には、ブリルアン散乱による周波数変化は干渉計を用いて計測されるが、ラマン分光法での実験系では干渉計か分散回折分光計のどちらでも用いうる。
 
 
 
==誘導ブリルアン散乱==
 
大強度のビーム (例: [[レーザー]]光) が[[光ファイバ]]などの媒質を伝播するとき、ビーム自体の電場振動それ自身が[[電歪効果]](electro-striction)によって媒質に音響振動を生じさせうる。
 
この振動によってビームは、通常入射方向とは逆に、ブリルアン散乱されることがある。この現象は'''誘導ブリルアン散乱''' (SBS)と呼ばれる。
 
液体および気体ではブリルアンシフトは1-10GHzのオーダー ([[可視光]]では1-10[[ピコメートル|pm]]の波長変化に相当) である。
 
誘導ブリルアン散乱は[[光位相共役]]が起きる現象のひとつである。
 
 
 
==発見==
 
光子の音響量子による非弾性散乱現象はレオン ブリルアン (1889-1969) によって1922年に最初に解明された。
 
また4年後の1926年に[[レオニード・マンデルシュタム]]によって独立に解明された。
 
マンデルシュタムに帰してブリルアンーマンデルシュタム散乱 (BMS) とも表記される。
 
他に一般的に使われる名称としてブリルアン光散乱 (BLS) や ブリルアンーマンデルシュタム光散乱 (BMLS) がある。
 
 
 
誘導ブリルアン散乱過程はChiaoらによって1964年にはじめて観測された。
 
光位相共役の側面はZel'dovichらによって1972年に発見された。
 
 
 
==光ファイバ計測==
 
ブリルアン散乱は光ファイバの歪・温度を検知するのにも用いることができる<ref>{{cite book|last=Measures|first=Raymond M.|title=Structural Monitoring with Fiber Optic Technology|publisher=Academic Press|date=2001|location=San Diego, California, USA|pages=Chapter 7|isbn=0-12-487430-4}}</ref>
 
 
 
==参考文献==
 
{{reflist}}
 
* [[レオン・ブリルアン|Léon Brillouin]], ''Ann. Phys.'' (Paris) 17, 88 (1922).
 
* [[レオニード・マンデルシュタム|Leonid Mandelstam]], ''Zh. Russ. Fiz-Khim.'', Ova. 58, 381 (1926).
 
*R.Y.Chiao, C.H.Townes and B.P.Stoicheff, “Stimulated Brillouin scattering and coherent generation of intense hypersonic waves,” ''Phys. Rev. Lett.'', '''12''', 592 (1964)
 
*B.Ya. Zel’dovich, V.I.Popovichev, V.V.Ragulskii and F.S.Faisullov, “Connection between the wavefronts of the reflected and exciting light in stimulated Mandel’shtam Brillouin scattering,” ''Sov. Phys. JETP'' , '''15''', 109 (1972)
 
 
 
==関連項目==
 
* [[散乱]]
 
* [[ラマン散乱]]
 
 
 
==外部リンク==
 
* [http://cimit.org CIMIT Center for Intigration of Medicine and Innovative Technology]{{en icon}}
 
* [http://www.rp-photonics.com/brillouin_scattering.html Brillouin scattering] in the ''Encyclopedia of Laser Physics and Technology''
 
* [http://www.soest.hawaii.edu/~zinin/Zi-Brillouin.html Surface Brillouin Scattering], U. Hawaii
 
* [http://www.icmm.csic.es/brillouin/BrillouinEN.htm List of labs] performing Brillouin scattering measurements
 
* {{Kotobank|2=法則の辞典}}
 
* {{Kotobank|ブリルアン効果|2=法則の辞典}}
 
  
 
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2019/4/26/ (金) 15:55時点における版

ブリルアン散乱(ブリルアンさんらん、ブリリュアン散乱、ブリュアン散乱とも)

透明な固体または液体に単色光が入射したとき、物質中の音波によって散乱する現象。固体の場合、音子(フォノン)の中の、光学分枝による散乱をラマン散乱、音響分枝による散乱をブリュアン散乱として区別する。1922年フランスの物理学者ブリュアンによって予言され、1930年ソ連の物理学者E・グロスEvgenii Fedorovich Gross(1897―1972)によって実験的に確認された。ブリュアン散乱はラマン散乱と違い、散乱光の振動数が入射光の振動数からずれる大きさΔωが物質の種類だけでは決まらず、散乱される方向によって変わる。すなわち、

Δω=(2vsωn/c)sin(θ/2)

である。ここでωは光の角振動数、cは光速度、vsは音波の伝播(でんぱ)速度、nは光の屈折率、θは入射波と散乱波のなす角度である。ブリュアン散乱は、見方を変えれば、物質中の音波によって生じた疎密格子によって生ずるブラッグ回折現象と考えてもよい。レーザーの出現によって実験は容易になってきているが、vsはcに比べて非常に小さく、したがってΔωも非常に小さな量で、波長変化をしないレイリー散乱線からのずれは、干渉計を用いて区別できる程度である。ブリュアン散乱において、入射光の強度が非常に強くなると、散乱光の強度が急激に増大する。この現象は誘導ブリュアン散乱とよばれる。