降水

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降水(こうすい)とは、水蒸気が凝結して大気中において形成される液体または固体が、重力により落下する現象を指す気象学用語。降水現象ともいう。気象現象の1つであり、大気水象(hydrometeor)に分類される。地球上の水循環サイクルの1部分であり、大気から陸上海洋への水の移動を担う。個々には、などが含まれる。はそれらを構成する水滴が小さく浮遊しており、または大気中の水蒸気が物体表面に直接昇華して起こるため、それぞれ降水には含まれない。

地上における(厳密には海上も含める)降水の量は降水量で表される。また、降水現象が一定時間に起こる確率を予報する手法を降水確率予報といい、日本では一定時限(ある時間帯内)に積算1mm以上の降水がある確率を降水確率という。

降水の観測方法はいくつかある。定量的な観測では雨量計を用いる。アメダスに採用されている転倒ます型雨量計は内蔵ヒーターなどを溶かして観測できる仕組みとなっている。雨が降っているがどうか(降り出し・降り止み)の観測には目視のほか、計器では感雨計を用いる。降水の形態、特に雪・霙・霰・雹などを観測・区別する方法は目視が中心である。広い範囲の降水を面的に観測する方法として気象レーダーがあり、降水の分布や強度を観測でき、連続観測により降水の移動や変化を観測・推測できる。

降水のメカニズム

一見何もないように見える空に雲が湧き始め、そこから雨や雪が降りだすのが降水という現象である。

その原理は単純だがさまざまな物理現象が関与している。まず海洋や、陸地河川植物そして地面などに液体として存在する蒸発して気体水蒸気となる。これがに乗って別の場所に移動して、ある要因により冷やされて、凝結して微小な水滴に、あるいは昇華して微小な氷晶になって、その集合体であるとなる。雲の中で水滴や氷晶は成長して重くなり、落下して地上や海上に降り注ぐ。

雲の生成

雲の生成に大きく関わっているのは上昇気流である。水蒸気を含む空気塊が上昇気流によって持ち上げられると気圧の低下によって膨張し「断熱冷却」され、水蒸気量が変わらないので湿度が上昇していく。持ち上げられる前の水蒸気量や気温によって露点温度は変わるが、露点温度を超えるといわゆる過飽和蒸気となる。微粒子が含まれるふつうの空気では過飽和度が1%くらいに達すると凝結が始まる[1]

水蒸気がどんどんと凝結していき雲粒となる過程を凝結過程(ぎょうけつかてい, condensation process)または拡散過程(かくさんかてい, spreading process)という。水蒸気は凝結核昇華核と呼ばれる大気中の微粒子(大気エアロゾル粒子)を核にして凝結または昇華する。凝結核は吸湿性のある微粒子であり、風塵砂塵嵐によって舞い上がった土壌由来のもの、火山ガスや工業排出による硫酸塩類、海面の微泡沫がはじけて蒸発したあと残る海塩粒子など。凝結過程にある雲粒の大きさは数~数十µmのオーダーである。なお、氷晶核と呼ばれる微粒子がなければ、凝結した微小水滴(雲粒)は-40くらいまで凍結せず過冷却である。-数度程度の過冷却は大気中でふつうに発生し、これが次の併合過程で重要な因子となる。

凝結過程にある数~数十µmの微小水滴は、質量で比べると雨粒の10万分の1以下と非常に小さい。凝結過程ではこれ以上大きくなることが難しいと考えられており、雨や雪に成長するものは次の過程に移る。

「冷たい雨」のプロセス

微小水滴がさらに集まっていき、数mmオーダーの雨粒や雪片に成長していく過程を併合過程(へいごうかてい, coalescence process)という。雨や雪を降らせない雲は、併合過程が十分に進んでいない雲である。凝結過程を経た高度の高い雲の中には過冷却の微小水滴が高密度で浮遊している。この環境下で土壌由来の結晶性の粘土鉱物などがあると比較的高い温度で凍結して氷晶核となり、氷晶のまわりは飽和水蒸気圧が低くなる関係で、周囲の過飽和水滴が蒸発して氷晶表面に昇華することで急速に氷晶が成長する。大きくなった氷晶は落下しながら周囲の氷晶とくっついて数mm~数cmオーダーの雪片となる。

こうして雪片のまま降るととして観測される。また、雪片が気温0℃以上の大気層に突入すると融解が始まるが、融解した水が気化する際に気化熱を奪うため融解し始めてからしばらくの間は雪の形をとどめる。一般的に融解し始めてから200~300mくらいで完全に融解する。そのため、気温が0℃以上でも6℃程度までは雪が観測される。なお、この境界温度は湿度と相関があり、湿度が高いと気化が遅く速く融けるため境界温度が低くなる。気温が0℃以上で雪が降っている場合、雪と雨が混在する場合があり、これをという。これより高い気温では完全に融解してとなる。

上昇気流はふつう1~数m・s-1の速度である。数µmのオーダーでは重量が軽いため上昇気流に支えられて浮遊しているが、数百µm~数mmのオーダーでは重量が大きくなり落下を始める。上昇気流が強いほどより大きな水滴を支えられるので、上昇気流が強いほど大きな雨粒が降りやすい。ただし、約8mmを超えると雨粒は落下中に分解してしまい、それより大きな雨粒は存在しない。

上記のように氷晶を経て成長する降水の過程を冷たい雨(cold rain)のプロセスという。これに対して氷晶を経ないで水滴のまま成長する降水もあり、これを暖かい雨(warm rain)のプロセスという。

「暖かい雨」のプロセス

熱帯の海洋上のように大量の水蒸気を含んだ空気が雲を作ると、凝結過程のみで大きな水滴が形成され、雨粒となって落下する。研究によれば1µmオーダーの大きな海塩粒子が凝結核として働くことや、数十µmオーダーの大きな雨粒が成長を促すことなどが知られている。また熱帯の海洋では積乱雲のように鉛直方向に大きな雲ができて、上層で「冷たい雨」のプロセスによる雪片や雨粒が作られて落下してくるためこれも因子となる。熱帯の雨のほか、低高度で雲が形成される霧雨も暖かい雨のプロセスであることが多く、これは中高緯度の地域でも見られる。また雨氷と呼ばれる着氷現象を発生させる過冷却の雨は、凍結を経ない「過冷却の暖かい雨」のプロセスである。

「冷たい雨」のプロセスによる降水でも、雲の下部に分布する「暖かい雨」の微小水滴層を通過することが雨粒の成長に強く影響しており、降雨強度などにも関わってくる。

降水の種類

霧雨霧雪(むせつ。氷点下における霧雨)、(雪あられ、氷あられ)、凍雨着氷性の雨細氷(ダイヤモンドダスト)が分類される。気象予報や気象観測など、用いる場面によっていくつかの分類方法がある。

降水現象の系統的分類
から落下する 雲から落下しない
降る時(着地直前)に液体 降る時(着地直前)に液体のものと固体のものが同時に存在する 降る時(着地直前)に固体
着地時に液体 着地時に固体 結晶が柔らかい 結晶が硬い
不透明または半透明状の結晶 透明状の結晶
雨粒の大きさが0.5mm以上 雨粒の大きさが0.5mm未満 雨粒の大きさが0.5mm以上 雨粒の大きさが0.5mm未満 雪粒の大きさが1mm以上 雪粒の大きさが1mm未満 氷粒の大きさが5mm以上 氷粒の大きさが5mm未満
半透明の結晶 不透明の結晶
詳細な分類 霧雨 着氷性の雨 着氷性の霧雨 霧雪 氷霰 雪霰 凍雨 細氷
簡略な分類 細氷

降水現象ごとにその発生時間や降水量を見てみると、雨と雪が全体の大部分を占める。形成過程において、雹や霰などすべての固体降水は雪の形態を必ず経る(細氷は雪を経ないが、それ自体が微細な雪の結晶のもとであるとも言える)。特殊な降水としては過冷却の雨があり、これは大気中を落下している最中は液体で、やがて地面などの物体に衝突した瞬間凍結して固体になる。過冷却の雨が空中で凍ると球体の透明な氷粒となり、これは凍雨と呼ばれる。

また、降水の分類の仕方にはこれ以外にいろいろなものがある。強度や降水量による分類、継続時間などの降水の様子による分類などである。

短時間に大量の降水があり、降水量の変化が激しいものを「驟雨性」の降水と言い、これと反対に長時間あまり変化しないで降り続けるものを「地雨性」の降水と言う。驟雨性の場合、「にわか」を冠してにわか雨やにわか雪などと呼ぶこともある。また、風雪、暴風雨、雷雨など、降水現象や他の気象現象と組み合わせた分類(呼び方)も多数ある。

降水と気候

降水は気温と並ぶ気候の主要な要素である。降水量や降水分布は地域や季節によって非常に大きな偏りがある。

全般的には、大陸の中央部よりも沿岸部や水蒸気の供給源である海洋上の方が降水量は多い傾向にある。また赤道付近が最も降水量が多く、緯度が高くなるほど気温が低く大気中の水蒸気量が少なくなるため降水量も少なくなる傾向にある。

ただ、大気大循環が地球規模で、季節風地方風などが数千kmの規模で降水分布に影響を与えている。熱帯収束帯が支配的である赤道付近では年間を通して降水量が多く熱帯雨林が見られる。亜熱帯高圧帯が支配的である低緯度地域の特に内陸部や大陸西岸で降水量が少なく、植生がないまたは乏しい砂漠ステップなどの地域が多い。季節により亜熱帯高圧帯の支配下に入る地域では雨季乾季が現れ、プレーリー灌木林、サバナ(長草草原)などの低木林や季節性草原が広がる地域が多い。夏季に亜熱帯高圧帯の支配下に入る中緯度の大陸西岸は夏季乾燥・冬季湿潤で硬葉樹林が分布する。対して夏季に亜熱帯高圧帯の支配下に入る中緯度の大陸東岸は夏季に海洋性季節風が入り込むため年間を通して湿潤となる。

地形、特に高い山岳地帯は降水分布に大きな影響を与える。1,000~2,000mを超えるような山脈や高地があるとその風上側では地形性の上昇気流により降水量が増え(地形性降雨)、風下側では乾燥風が吹き下ろして降水量が減る(雨蔭)。インド北東部、ハワイカウアイ島Waialeale山、カメルーンカメルーン高地など世界の顕著な多雨地帯は年間通してあるいは雨季に山脈の風上となる地域に多い。日本でも最多雨地である大台ケ原屋久島をはじめ、多雨地域である九州四国紀伊半島南東山麓や北陸北西山麓は多雨期に風上となる。

低緯度や中緯度地域では積乱雲による降り方の変化が激しい驟雨性の降水(対流性降雨)が多くみられ、スコール夕立などとして知られている。また低緯度や中緯度地域の島嶼や沿岸地域では、熱帯低気圧により強風を伴ったまとまった大雨がもたらされ、総雨量数百mm・平年数カ月分に達することがある。

高緯度地域では亜寒帯低圧帯が支配的となり、大陸西岸の方が降水量が多くなる。また比熱容量の大きい水域や暖流の効果で雪雲が発達し風下側の沿岸に大雪をもたらす湖水効果雪がみられ、語源となった北米五大湖南東沿岸、スカンジナビア半島、日本の日本海側など西岸で顕著である。

両極を中心とした高緯度地域や中低緯度の高山の一部では、気温が低いため降水が雪などの固体降水に限られ、夏季に地表付近のみ凍土が融けるツンドラ、年間を通して氷点下にある地域では万年雪氷河がみられる。氷河地域では降水量は少ないものの、地吹雪により地表付近の雪が巻き上げられて移動する。

脚注

  1. 微粒子が非常に少ない清浄な空気の場合には、化学的安定のため過飽和度300~400%程度になるまで凝結しない。

出典

関連項目