次亜塩素酸水

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次亜塩素酸水(じあえんそさんすい)は、塩酸または塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより得られる、次亜塩素酸(HClO)を主成分とする水溶液である。本品には、強酸性次亜塩素酸水、弱酸性次亜塩素酸水、および微酸性次亜塩素酸水がある[1][2]

概要

次亜塩素酸水(Hypochlorous Acid Water)は、食品加工等の分野において洗浄・消毒用途などで使用される食品添加物(殺菌料)である。 次亜塩素酸ナトリウムとは異なるものである。

専用の装置を使用し、塩化ナトリウム水溶液、塩酸水、あるいは塩酸塩化ナトリウムの混合液を電気分解することで、次亜塩素酸(HClO)を主成分とする次亜塩素酸水をつくることができる。生成装置の種類によって生成する次亜塩素酸水の物性が異なる。 生成装置については、「JI B 8701 次亜塩素酸水生成装置」を参照のこと[3]


注意 次亜塩素酸ナトリウム塩酸等のpH調整剤を混ぜたものは食品添加物の”次亜塩素酸水”とは異なる。


次亜塩素酸水はその製造方法から一般的に電解水と呼ばれているが、食品添加物の指定を受けた際に、次亜塩素酸水として命名された経緯がある。そのため、食品添加物として扱う際には次亜塩素酸水の名称となる。

確実な殺菌効果を得るために、

  1. 使用する前に必ず有効塩素濃度を確認する
  2. 使用にあたっては、洗浄・消毒する物の汚れをあらかじめ十分に除去した後、次亜塩素酸水の流水下で消毒を行う

ことが重要である。

食品添加物として認可されたものは次の3種類である。

次亜塩素酸水の種類
名称 pH 有効塩素濃度(ppm) 別名
強酸性次亜塩素酸水 2.7以下* 20~60 強酸性電解水
弱酸性次亜塩素酸水 2.7~5.0 10~60 弱酸性電解水
微酸性次亜塩素酸水 5.0~6.5 10~80 微酸性電解水

※強酸性次亜塩素酸水のpHは実際的には2.2~2.7である。pH2.2以下では塩素ガスの発生が激しくなる。

食品添加物(殺菌料)としての認可

強酸性次亜塩素酸水および微酸性次亜塩素酸水:

官報 第3378号厚生労働省令第75号・告示第212号2002年6月10日 [4]

弱酸性次亜塩素酸水:

食安発0426第1号2012年4月26日 [1]

次亜塩素酸水は水そのものが流通するのではなく、生成装置が流通する。そのため、成分規格に適合する次亜塩素酸水が生成されることを担保するため、生成装置の規格(電解物質、隔膜等)が厳しく定められている。(厚生労働省医薬局食品保健部基準課 酸性電解水に関するパブリックコメント平成14年4月)[5][6]


生成装置の規格 2017年10月20日に「JI B 8701 次亜塩素酸水生成装置」が制定された[3]

注意:JIS B 8701次亜塩素酸水生成装置から生成した水溶液の中には、食品添加物(殺菌料)の指定範囲と異なるものがある。食品添加物(殺菌料)として使用する場合には物性(pH、有効塩素濃度)を確認する必要がある。

注意 なお、食品添加物次亜塩素酸ナトリウム」に、食品添加物である「塩酸」または「クエン酸」等をあらかじめ混和した水溶液を販売することは、この当該水溶液中で化学反応が生じていると考えられることから、添加物製剤には該当せず、その販売は認められない。2.電解水も同様、水溶液は添加物製剤に該当せず、その販売は認められない(食安基発第0825001号 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長通知)[7]

用途

[6] 食材、機械・器具等の洗浄消毒の他、手洗いに用いられる。

使用前に必ず有効塩素濃度が規定濃度の範囲であることを確認する。

食材の洗浄消毒に使用する際は、あらかじめ汚れを十分に洗い落とした後、次亜塩素酸水の流水下で行う。

浸漬で使用する場合は、必ず次亜塩素酸水を連続的に供給し、オーバーフローで行う。

水道水で洗った場合以上の塩素が残留しないように、最後は水洗等行い、最終食品の完成前に除去する。

機械・器具・容器等の洗浄消毒に使用する際は、付着している有機物(タンパク質、油脂など)を洗剤等で洗浄除去した後、次亜塩素酸水で除菌する。もしくは、強アルカリ性電解水(pH11~11.5以下)で洗浄後、強酸性次亜塩素酸水で消毒の後、軽くすすぎを行う。

手指の洗浄消毒に使用する際は、石鹸等であらかじめ汚れをよく落とした後、次亜塩素酸水で除菌する。もしくは、強アルカリ性電解水(pH11~11.5以下のもの)で洗浄後、強酸性次亜塩素酸水で除菌を行う。

使用上の注意

  1. 塩素臭がするため、使用場の換気を行うことが望ましい。
  2. 有効塩素濃度が低いため、有機物(タンパク質、油脂など)が残った状態では、次亜塩素酸水の殺菌/除菌効果が得られない恐れがある。あらかじめ汚れを十分に落としてから使用することが望ましい。

種類と製法

[1][4][8][3]

強酸性次亜塩素酸水
0.2%以下の塩化ナトリウム水溶液を、隔膜がある電解槽(二室型または三室型)で電気分解し、陽極側から生成する。
弱酸性次亜塩素酸水
0.2%以下の塩化ナトリウム水溶液を、隔膜がある電解槽(二室型または三室型)で電気分解し、陽極側から生成する。または陽極側から得られる水溶液に陰極側から得られる水溶液を加えて生成する。
微酸性次亜塩素酸水
塩酸または塩酸に塩化ナトリウム水溶液を加えた水溶液を、隔膜がない電解槽(一室型)で電気分解して生成する。
次亜塩素酸水の種類[8]
名称 電解槽 被電解液 pH 有効塩素濃度(ppm)
強酸性次亜塩素酸水 二室型/三室型 NaCl水 2.7以下* 20~60
弱酸性次亜塩素酸水 二室型/三室型 NaCl水 2.7~5.0 10~60
微酸性次亜塩素酸水 一室型 塩酸水 5.0~6.5 10~80
塩酸/NaCl水 5.0~6.5 10~80

※強酸性次亜塩素酸水のpHは実際的には2.2~2.7である。pH2.2以下では塩素ガスの発生が激しくなる。


安全性

急性毒性、反復投与毒性、遺伝毒性、皮膚累積刺激性試験、眼刺激性試験などの試験の結果、異常がないことが確認されている[6]

有効性

次亜塩素酸水には、殺菌基盤となる次亜塩素酸(HClO)の他、過酸化水素(H2O2) やヒドロキシラジカル(OHラジカル)が存在する。次亜塩素酸水の広範な殺菌力の作用機序は、これらが細胞膜タンパク質核酸に多面的に作用して酸化的に損傷を与えることであると考えられている[8]。使い続けても耐性菌の出現がこれまで無く、今後もないと理論的に判断されている[9]。 ただし、有効塩素濃度が規定未満の場合、殺菌効果が不十分となるため、使用前には必ず有効塩素濃度を確認することが重要である。また、タンパク質や油分など有機物が混在する場合、次亜塩素酸が消費され、目的の殺菌効果が得られないため、あらかじめ十分に有機物汚れを落とす必要がある。

次亜塩素酸水の殺菌効果・不活化効果[10]
名称 次亜塩素酸水(40ppm) 次亜塩素酸ナトリウム(1000ppm)
Staphylococcus aureus (黄色ブドウ球菌)
MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
Bacillus cereus (セレウス菌)
Salmonella Enteritidis (サルモネラ菌)
Vibrio parahaemolyticus (腸炎ビブリオ菌)
Escherichia coli O-157:H7 (腸管出血性大腸菌)
Campylobacter jejuni (カンピロバクター菌)
ノロウイルス (ネコカリシウイルス)
インフルエンザウイルス (2009年新型を含む)
Candida albicans (カンジダ)
Aspergillus niger  ; アスペルギルス (黒カビ) ×
Penicillium cyclopium ; ペニシリウム (青カビ) ×

殺菌効果又は不活化効果:◎(速攻)>〇>△>×(無効)

食品添加物以外の認可

医療機器

強酸性電解水生成装置  医療機器コード:70477000[11]

軟性内視鏡用洗浄消毒器 医療機器コード:35628000 [12]

強酸性電解水そのものは薬機法(薬事法)上、医薬品の承認はされていない。認証された装置のみが流通する。

特定防除資材

2014年、塩酸または塩化カリウム水溶液を電気分解したものが、きゅうりのうどんこ病、いちごの灰色かび病に対し、特定農薬として指定を受けた[13]。 特定防除資材での名称は、電解次亜塩素酸水であり、塩酸または塩化カリウム水溶液を電気分解したものに限られている。

JIS B 8701 次亜塩素酸水生成装置

2017年10月20日に制定された[3]。 JIS認証品から生成する次亜塩素酸水はpH2.2~8.6 有効塩素濃度10~100mg/kg である。食品添加物(殺菌料)の指定範囲と異なる領域もカバーしている。

類似品

電解次亜水

塩化ナトリウム水溶液を無隔膜式電化槽で電気分解することで、次亜塩素酸イオン(OCl)を主成分とし、次亜塩素酸(HClO)を含有する電解水が生成する。物性はpH7.5~10、有効塩素濃度50~200ppmである。次亜塩素酸ナトリウムを希釈したものと同等とみなされ、食品添加物として利用できる(衛化第31号厚生労働省生活衛生局食品化学課長通知)[14]。次亜塩素酸水と同様に、水そのものは流通せず装置が流通する。

次亜塩素酸ナトリウムのpHを調整したもの

次亜塩素酸ナトリウム塩酸炭酸ガス等の酸を混合することで、意図的に次亜塩素酸(HClO)の含有量を変化させることができる。混合するための装置などが流通し、その生成物やあらかじめ混合した水溶液について食品添加物の申請は行われていないが、食品添加物である次亜塩素酸ナトリウムと食品添加物である塩酸やクエン酸を混合し、それを用いることは差し支えないとしている。(食安基発第0825001号)

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 食安発0426第1号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知[1]
  2. 次亜塩素酸水成分規格改定 審議資料[2]
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 経済産業省ニュースリリース2017年10月[3]
  4. 4.0 4.1 官報 第3378号厚生労働省令第75号[4]
  5. 厚生労働省医薬局食品保健部基準課 酸性電解水に関するパブリックコメント平成14年4月[5]
  6. 6.0 6.1 6.2 谷村顕雄『第8版食品添加物公定書解説書』廣川書店、2007年、D-683-D691
  7. 食安基発第0825001号 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長通知[6]
  8. 8.0 8.1 8.2 日本機能水学会編『次亜塩素酸水生成装置に関する指針第2版』2012年
  9. 堀田国元「酸性電解水(次亜塩素酸水)の技術応用と業界動向」『食品と開発』51(3)、2016年、16-18p
  10. 機能水研究振興財団発行『ノロウイルス対策と電解水』2008
  11. 医薬品医療機器総合機構 基準[7]
  12. 日本機能水学会監修『機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器の使用手引き第2版』2015年
  13. 2 5 消安第5 7 7 6 号 環水大土発第1403281 号 農林水産省消費・安全局長通知 環境省水・大気環境局長通知[8]
  14. 衛化第31号厚生労働省生活衛生局食品化学課長通知[9]

外部リンク