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木造ビル

木造ビル(もくぞうビル)は、木材を使ったビルディング。特にCLT(クロス・ラミネテッド・ティンバー、直交集成板、直交集成材)を構造材とすることで、高層ビルの建設が可能となった[1][2]

概要

2000年代後半に入り欧州など世界各国で、実現または計画・検討されている。CLTと呼ばれる厚板パネルを使った新しいビル工法で、ニューウッド・テクノロジー(New Wood Technology)と称される新しい木造技術の開発・進歩が背景にある。高層ビルの建設に使われてきたコンクリート鉄骨鉄筋に代替・併用して、マス・ティンバー(Mass Timber)と称される木材で高層建築を実現する動きが加速した。2009年イギリスで9階建ての集合住宅が建設され、2013年にはイタリアで9階建ての公営住宅が、オーストラリアで10階建ての集合住宅が着工。さらに2017年完成を目指し、カナダで18階建ての宿舎が建設中である(には鉄筋コンクリート使用)。また、アメリカ合衆国では高層ビルのコンペティションが実施され、ニューヨークには10階建ての、ポートランドで12階建ての高層ビル建設が検討されている。イギリスでは2016年、80階建ての高層ビル建設構想がロンドン市長に提出された。こうした動きは、海外では「木材の革命(Innovations in Wood)」と呼ばれている[2][1]

CLTはヨーロッパ北米では十分な供給が可能であり、CLTパネルは工場で製造されるため現場での施工時間の大幅な短縮が望め、工期の短縮が期待できる。普及によれば将来的にはコストカットが可能である。また、高層ビルでこれまで難しかった木の風合いを施せるようになり、メリットは大きい[1]

こうした動きの背景には、環境問題がある。樹木は、伐採植林→伐採→植林→…というサイクルを繰り返して、木材の供給源となる。樹木は生育過程で地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収し、建築用材として利用される限りは二酸化炭素を放出することはない(解体後に焼却されても、発生した二酸化炭素は別の樹木が吸収する)。このサイクルを実現するためには、計画的な植林と伐採を行えば無計画な樹林の伐採は防止でき、森林保護も実現できる[1]

CLT(クロス・ラミネテッド・ティンバー、直交集成板、直交集成材)

繊維方向に揃えた(ラミナ)をクロスさせて重ね、接着剤で圧着した木材。和名は「直交集成材」である。板を交互に合わせることで互いの層を抑え合うことから収縮が少なく、強度も高くなり、コンクリートに匹敵する。組み合わせにより、など幅広く使用できる。コンクリートのような現場での型枠作業などの工程が不要であり、くり抜きや裁断も自在であるため、応用度が高い。接合には金具が使われるが、シンプルであるため設計と施工両面での省力化が可能である。日本初のCLT構造の3階建てアパートは、鉄筋コンクリートなら通常1カ月弱はかかるところ、ほぼ丸1日で構造体が完成した[2]

歴史

1995年頃からオーストリアを中心に研究・開発が進められた。木材により高層ビル建設が可能になったのは、木板の繊維の方向を直角に交わらせ集成・接着するCLTの開発によるところが大きい。従来の木造建物では、など線材により構造を支えていたが、CLTでは、壁や床などにこれを利用して「面」で構造を支える。また木材の繊維方向を交互に貼り合わせる工法による素材であるため、木材特有のねじれ、割れなどを防止できるほか、建築材としての強度も増している[2][1]

ヨーロッパでは法令などの見直しが進んでいる。かつては木造は2階建てまでしか認められなかった国が大半であったが、2020年にはヨーロッパのほぼ全土で、5階建て以上の木造建築が可能となる見通しだ[1]

日本

ファイル:Southwood 20150201-2.jpg
日本国内初の耐火木造商業施設「サウスウッド」(横浜市都筑区

ヨーロッパなど海外に比べ普及は遅れている。日本は各地で起きた大火や、太平洋戦争日本本土空襲などで木造建築が燃え、大被害を出した。この反省から、1950年建築基準法で大型建築物の木造が禁止され、その後、2000年の法改正まで空白が続いたことによる。2010年には、耐火性能が向上したとして、公共建築物の木造化の推進を目的とした「公共建築物等における木材利用の促進に関する法律」が成立。2014年には、林野庁および国土交通省による「CLTの普及に向けたロードマップ」が策定され、普及への動きが加速されている。2015年8月には「CLTで地方創生を実現する首長連合」が、翌2016年5月には衆参両院議員による「CLTで地方創生を実現する議員連盟」が設立された。木造ビルの建設は、国土の68%を森林が占める森林国である日本林業再生の切り札として期待される[1]

日本で初めてのCLTを使ったビルは、2014年3月竣工の高知県内の製材会社の3階建て社員寮である[1]

竹中工務店カラマツを使った「燃エンウッド」の商品名で、最も厳しい市街地の防火地域での基準を満たした木造部材を開発、横浜市の「サウスウッド」と大阪市の3階建てオフィスビル「大阪木材仲買会館」に採用された。

鹿島は「FRウッド」で国産スギに難燃薬剤を注入し、1時間の耐火認定を取得した。2020年東京オリンピック開催をにらんだ再開発が追い風となり、日本の都市の姿がコンクリートジャングルから木造ビルが林立する木の街に一変する可能性を指摘する意見もある[3][4]

日本ではCLTに関する建築基準が皆無であったため、建設には個別の国土交通省の認定が必要であった。2016年4月には国土交通省により「CLTパネル工法」の告示が実施され、この告示に基づいた構造計算を行うことで大臣認定が不必要となり、CLTを使った建築が可能となった。日本には法令上木造ビルの階数制限は存在せず、高層ビルに木造を採用することも可能である[1]日本政府は、2015年度概算要求ではCLTの開発普及に11億円を計上し、東京オリンピックを前に普及に努める[3]

住友林業2018年、高さ350メートルの超高層木造ビルを2041年を目標に建設する計画を発表した。9割を占める木材を鋼材と組み合わせる「木鋼ハイブリッド構造」を用いる[5]

課題

日本は地震大国であるため、木造ビルには海外よりも厳しい耐震・防火性能が求められる。また、現状ではビル用木材の需要・生産量が少なく、コスト面ではコンクリートが有利である。また、CLT工法は、法隆寺東大寺大仏殿など1本使わない伝統的日本建築の工法とは本質的に異なるものであり、京都大学教授五十田博によれば「木造」の言葉から想起する「材料の特性や合理性をとことん考えた美しさ」とは趣を異にするものである[1]

脚注

外部リンク