バーンサイドの補題

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バーンサイドの補題: Burnside's lemma)、あるいはバーンサイドの数え上げ補題コーシー・フロベニウスの補題軌道の数え上げ補題とは、対称性を考慮して数学的な対象を数え上げるときに有用な群論の結果である。

以下では G有限群集合 X作用しているとする。群 G の各元 g に対して Xg で元 g によって固定されるすべての X の元からなる集合を表す。バーンサイドの補題は軌道の数 |X/G| は次の式で表せることを主張している[1]

[math]\vert X/G \vert = \frac{1}{\vert G\vert}\sum_{g \in G}\vert X^g\vert[/math]

つまり軌道の数(これは自然数あるいは+∞)は群 G の元による固定点の数の平均(これも自然数あるいは+∞)と等しい。もし G が無限群ならば |G| による除法は定義されないが、その場合には次の基数に関する主張が成り立つ。

[math]\vert G\vert \cdot \vert X/G\vert = \sum_{g \in G}\vert X^g\vert[/math]

例と応用

以下ではこの補題を使って立方体の面を3色で塗り分ける数を決定する。ただし回転させて一致するものは同一視する。

X をある特定の向きの立方体の面を塗り分ける36通りの彩色からなる集合とし、立方体の回転群 G (≅ S4) は自然に X に作用しているとする。このとき集合 X の2元が同じ軌道に属するのは一方がもう一方の回転であるとき、かつそのときに限る。したがって塗り分ける数は軌道の数と一致し、それは群 G の24元がそれぞれ固定する集合の大きさを数えることで計算できる。

ファイル:Face colored cube.png
彩色された立方体
単位元
36個の元すべてを固定する
面の90度回転(6つ)
33個の元(回転軸の通る2面と側面の彩色分)を固定する
面の180度回転(3つ)
34個の元(回転軸の通る2面と側面の2対面の彩色分)を固定する
頂点の120度回転(8つ)
32個の元(回転軸に対して上下の彩色分)を固定する
辺の180度回転(6つ)
33個の元(回転軸の通る辺に接する面の2組と側面の彩色分)を固定する

よって各元が固定する集合の大きさの平均は次の通り。

[math] \frac{1}{24}\left(3^6+6\cdot 3^3 + 3 \cdot 3^4 + 8 \cdot 3^2 + 6 \cdot 3^3 \right) = 57[/math]

したがって立方体の面を3色で塗り分ける方法は57通りある。一般に立方体の面を n 色で塗り分ける方法は次の通り。

[math] \frac{1}{24}\left(n^6+3n^4 + 12n^3 + 8n^2\right)[/math]

証明

証明の第一歩は群 G の元 g に関する和を集合 X の元 x に関する和に書き直すことである(二重数え上げ)。

[math]\sum_{g \in G}\vert X^g\vert = \vert\{\, (g,x)\in G\times X \mid gx = x \,\}\vert = \sum_{x \in X} \vert G_x\vert[/math]

(ここで Xg = { xX | gx = x } は群 G の元 g で固定される X のすべての元からなる集合で Gx = { gG | gx = x } は集合 X の元 x を固定する G のすべての元からなる固定群である。)

軌道・固定群定理により集合 X の各元 x の軌道 Gx = { gxX | gG } と固定群 Gx による左剰余類 G/Gx の間には自然な全単射がある。ラグランジュの定理と合わせると次を得る。

[math]\vert Gx \vert = [G:G_x] = \vert G \vert / \vert G_x \vert[/math]

したがって最初の等式の右辺にある集合 X の元に関する和を次のように書き換えることができる。

[math]\sum_{x \in X} \vert G_x\vert = \sum_{x \in X} \frac{\vert G\vert}{\vert Gx\vert} = \vert G\vert \sum_{x \in X}\frac{1}{\vert Gx\vert}[/math]

最後に集合 X は軌道の直和であることに注意すれば直前の X に関する和は各軌道に関する和へ分解できる。

[math]\sum_{x \in X}\frac{1}{\vert Gx\vert } = \sum_{A\in X/G} \sum_{x\in A} \frac{1}{\vert A\vert} = \sum_{A\in X/G} 1 = \vert X/G\vert[/math]

すべてをまとめれば目的の結果を得る。

[math]\sum_{g \in G}\vert X^g\vert = \vert G\vert \cdot \vert X/G\vert[/math]

歴史

ウィリアム=バーンサイドEnglish版は『有限群論』(1897年)[2]で{{#invoke:Footnotes | harvard_citation }}に拠るものとしてこの補題を述べ、証明した。しかしフロベニウス以前にもこの式はコーシーによって1845年には知られていた。実際にはこの補題はよく知られていたのでバーンサイドが単にコーシーへ帰するのを省いたようである。結果としてこの補題はしばしばバーンサイドのでない補題とも呼ばれる[3]。バーンサイドはこの分野において多くの貢献をしているのでこれは一見感じられるほど曖昧ではない。

脚注

参考文献

関連項目