トゥレット障害

提供: miniwiki
移動先:案内検索


トゥレット障害(トゥレットしょうがい、英語: Tourette syndrome)またはトゥレット症候群とは、チックという一群の神経精神疾患のうち、音声や行動の症状を主体とし慢性の経過をたどるものを指す。小児期に発症し、軽快・増悪を繰り返しながら慢性に経過する。トゥレット症候群の約半数は18歳までにチックが消失、または予後は良いとされている。

チックの症状のひとつに汚言症があり、意図せずに卑猥なまたは冒涜的な言葉を発する事から社会的に受け入れられず二次的に自己評価が低下したり抑うつ的になったりすることがある。ただし、この症状が発症することは稀で子供や軽症例では殆ど見られない。

病名は初期に記載したフランスの神経内科医、ジョルジュ・ジル・ド・ラ・トゥレットEnglish版(1857-1904)にちなむ。ジル・ド・ラ・トゥレット症候群とも呼ばれるが最近は米国精神医学会(APA)による診断基準DSM-IV-TRや国際疾病分類第10版(ICD-10)にならい、単にトゥレット障害あるいはトゥーレット症候群などと呼ばれることが多い。

チックの症状

以下の動作を頻繁に行う。

運動チック
顔面の素早い動き(まばたき、顔をしかめるなど)、首を振る、腕や肩を振り回す、体をねじったり揺すったりする、自分の体を触ったり叩いたりする、口の中を噛む、他人の身体や周囲のものなどにさわる、など
音声チック
咳払い、短い叫び声、汚言症(罵りや卑猥な内容)、うなり声、ため息をつくなど

一見チックに意味があるようにみえることがあり、これが更なる誤解を生むことがある。またチックはある程度抑制することができる場合もある。そのため、例えば学校等の公共の場ではチックを我慢し、家などに帰ると安心し、抑えていたチックを起こす場合もある。

疫学

軽度のものを含めるとチックは比較的ありふれたものと考えられている。小児におけるトゥレット障害の正確な有病率ははっきりしないが、海外の大規模な調査では1%弱という数字も報告されている。男児が女児に比べ約3 - 4倍多い。またADHD強迫性障害学習障害自閉症を合併する例もある。

原因

原因は確定していないが、基底核におけるドーパミン系神経の過活動仮説が提唱されている。また双生児研究などから、遺伝的要因の関与も示唆されている。

統合失調症自閉症と同じようにかつては「親の養育」「家族機能」などに原因を求められたこともあったが、現在では前記2疾患と同様、それらの説が否定されがちである。しかしながら、精神的ストレスで悪化するなど、症状の増悪に環境要因が関与しているのは事実である。

また、左利きの者に対する矯正などがストレスとなり、発症することがあるとも言われている。

治療

ハロペリドール(セレネース)、クロルプロマジン(コントミン)、リスペリドン(リスパダール)など抗精神病薬による薬物療法が一定の効果を示す。

精神療法では行動療法の一種であるハビットリバーサル法(チックをする代わりに、チックと同時にはできない別の動作をする練習を行う技法)を主とした包括的行動的介入の有効性が示されている[1]

加えて特に小児の場合はストレス因子の除去、疾患から生じる二次的な劣等感の除去・予防、症状から生じる周囲の偏見や学校でのいじめなどの予防などが重要である。

これらの治療が充分に機能しない難治性トゥレット障害の場合脳深部刺激療法が検討される場合もある[2]

前述のようにADHDや強迫性障害、自閉症などを合併した場合の治療については、「ADHD#管理」・「強迫性障害#治療」・「自閉症#治療」も参照。

脚注

参考文献

  • オリヴァー・サックス著『火星の人類学者』にトゥレット障害を有する外科医の記載がある。
  • オリヴァー・サックス著『音楽嗜好症』において、トゥレット障害を持つ人々が音楽をたしなむことでチックとの「和解」に成功した例が述べられている(同書第18章「団結──音楽とトゥレット症候群」)。
  • 『みんなで学ぶトゥレット症候群』(星和書店)は「A mind of its own:Tourette's Syndrome:A story and a guide」(Oxford University Press)の日本語訳で、トゥレット症候群についての詳しい書物である。
  • ミネット・ウォルターズ著『蛇の形』の被害者が患っていた。説明および描写がある。
  • 明石書店『トゥレット症候群ってなあに? 』(知りたい、聞きたい、伝えたい おともだちの障がい)

外部リンク