エネルギー貯蔵

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エネルギー貯蔵(エネルギーちょぞう、energy storage)媒体とは、エネルギーを何らかの形で格納する物質であり、後から利用可能な形でそれを引き出せるものである。貯蔵するエネルギーの形態としては、位置エネルギー(例えば、化学エネルギー、重力エネルギー、電気エネルギー)と運動エネルギー(例えば、熱エネルギー)がある。ぜんまいを巻いた時計は位置エネルギーを蓄え(この場合は、ばねの弾性力)、電池はコンピュータの電源が切れているときでもそのクロックチップを動かし続けるために即座に変換可能な化学エネルギーを蓄え、水力発電用ダムはその貯水池に重力位置エネルギーを蓄えている。氷の貯蔵タンクは、夜間に氷(熱エネルギー)を蓄え、ピーク時の冷房需要に備える。石炭や石油といった化石燃料は過去の太陽エネルギーを貯蔵している。さらに言えば、食品(化石燃料と生成過程は同じ)は化学物質の形でエネルギーを貯蔵している。

歴史

自然の過程としてのエネルギー貯蔵は、宇宙そのものと同じぐらい古くからある。宇宙が生まれたとき存在したエネルギーは太陽などの恒星に貯蔵し、人類はそれを直接的(すなわち太陽熱)または間接的(すなわち、作物の成長や太陽電池で電気に変換するなど)に利用している。エネルギーを貯蔵することで人類はエネルギーの需要と供給のバランスをとることができる。今日商用で使われているエネルギー貯蔵システムは大まかに、力学、電気、化学、生物、熱、核に分類できる。

エネルギー貯蔵は意図的な活動として有史以前から存在していたが、エネルギーを貯蔵していると明確に意識して行われていたわけではない。力学的エネルギーを意図的に貯蔵した例として、丸太や石を古代の砦の防御に使った方法がある。丸太や石を丘や城壁の上など高いところに集め、そうして蓄えた位置エネルギーを敵方が範囲内に入ってきたときの攻撃に使った。もっと最近の例では、水路を制御して水車を回し、粉をひいたり機械を動かしたりした。貯水池とダムの複合システムは水(とその位置エネルギー)を蓄え必要に応じて解放して利用するために建設された。

発電やガソリンやケロシン、天然ガスなどの精製化学燃料が19世紀末に広く普及したことで、エネルギー貯蔵が経済発展の重要なファクターとなった。それまでの木や石炭などによるエネルギー貯蔵とは異なり、電気は発電したものを即座に使うという使い方だった。電気を大規模に貯蔵するということはこれまで行われてこなかったが、今後はその状況に変化が予想されている。2009年アメリカ復興・再投資法に基づき、エネルギー貯蔵法とスマートグリッドへの応用の研究が行われている[1]。電気は閉回路内を流れ、基本的にはどんな実用的用途であっても電気エネルギーそのままの形で貯蔵することができない。これは電力需要の急激な変化に対して供給低下(電圧低下や停電)を全く起こさないことを保証できず、別の媒体に電気エネルギーを格納しなければならないことを意味している。再生可能エネルギーも供給安定のためには貯蔵する必要がある。風は間欠的に吹くので、無風状態の期間を埋めるために貯蔵が必要だし、太陽エネルギーも天気が悪ければ使えないので、太陽エネルギーが使えない間の補填のための貯蔵が必要となる。

電気を貯蔵する手段としては、まず電池という電気化学装置が開発された。しかし、容量が小さくコストが高いため、発電システムでの利用は今のところ限定的だった。同様の問題の似たような解決策としてはコンデンサがある。1980年代、空調への電力需要増を満たすため、一部の製造業者は慎重に熱エネルギー貯蔵 (TES) を研究した[2]。今日ではごく少数の企業がTESの製造を行っている。熱エネルギー貯蔵のよくある形式は、氷を貯蔵しておいて冷却する方式である。氷は水よりも少ない量でより多くのエネルギーを貯蔵でき、燃料電池フライホイールより安価である。熱エネルギー貯蔵は日中のピーク電力需要をギガワット単位でシフトさせ、コストもかからず、35カ国以上の3,300以上の建物で使われている。TESは、夜間の安い電力で氷を作って熱エネルギーを貯蔵し、翌日の日中にその建物の空気を冷やすのにその氷を使う。

化学燃料は、発電とエネルギー輸送の両方で支配的なエネルギー貯蔵の形式となっている。主な化学燃料としては、処理された石炭ガソリン軽油天然ガス液化石油ガス (LPG)、プロパンブタンエタノールバイオディーゼル水素などがある。これらは全てすぐに力学的エネルギーに変換でき、それを熱機関タービンなどの内燃機関ボイラーなどの外燃機関)に使って発電し電気エネルギーに変換できる。熱機関を使った発電機はほとんどどこでも使われており、数キロワットを発生する小さなものから800メガワット程度の大型のものまで様々である。

燃料電池という電気化学装置は電池とほぼ同時期に発明された。しかし様々な理由から燃料電池は開発が進まなかった。その状況が変わったのは、有人宇宙船(ジェミニ計画)で軽量で発熱しない(高効率の)電力源を必要としたことが発端だった。近年では、炭化水素や水素燃料が持つ化学エネルギーを高効率で電気エネルギーに変換すべく、燃料電池の開発が進んでいる。

現在、液体の炭化水素燃料が輸送の際のエネルギー貯蔵形式としては支配的である。しかし、自動車、トラック、列車、船舶、航空機の燃料としてこれを使うと、温室効果ガスが発生する。水素などの炭酸ガスを発生しない燃料や、ある種のエタノールやバイオディーゼルなどの実質的に炭酸ガスを増やさない燃料は、温室効果ガス増加の懸念への対応策と見なされている。

世界の一部地域(例えば、アメリカ合衆国ではワシントン州オレゴン州イギリスではウェールズ)では、地形の特徴を利用して電力消費が低い時間にポンプで水を高地の貯水池に汲み上げ、電力需要ピーク時にその水を使ってタービンを回して発電している。

その他にもフライホイール・バッテリーや地下の洞窟に圧縮空気を貯蔵する方式など、様々なテクノロジーの研究が進んでいる。

the Solar ProjectSolar Tres Power Tower では、太陽熱エネルギーを貯蔵するのに溶融塩を使い、必要に応じて発電に使う方式を研究中である。太陽熱で熱した溶融塩を断熱コンテナに貯蔵し、必要なときに水をそれで熱し、発生した蒸気でタービンを回して発電する。

電力網におけるエネルギー貯蔵

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ウェールズにあるダムと貯水池。夜間電力を使って水を汲み上げ、昼にその水で発電する(揚水発電)。電力需要が増大して発電の必要が生じると、1分以内に360メガワットを発電できる。ダムの大きさは下の方に停車中の自動車で判断できる。

電力網におけるエネルギー貯蔵(grid energy storage または large-scale energy storage)とは、発電所が余分な電力を一時的な電力貯蔵施設に送電しておき、電力需要が大きくなったときにそこが電力を供給する側になるという方式である。これは、夜間と昼間の電力の需要と供給を一致させる方式の1つとして注目されている。

貯蔵方法

水素

水素は電力貯蔵媒体としても研究されている。水素はまず他のエネルギー源を使って製造する必要があり、一次エネルギー源ではないが、エネルギー輸送手段になる。水素貯蔵は、貯蔵手段として再生可能エネルギーを普及させる重要なファクターとなる。

地下水素貯蔵は、地下の洞窟岩塩ドーム、あるいは枯渇した油田やガス田に水素を貯蔵する方式である。ICIは大量の水素ガスを地下の洞窟に長年貯蔵しているが、特に困難は発生していない[3]。地下に大量の水素ガスを貯蔵することで余剰電力を貯蔵することができる。ターボエキスパンダーを使って水素ガスを200バールまで圧縮するのに要する電力量は圧縮する水素のエネルギー量の2.1%である[4]

太陽エネルギーや風力エネルギーなどの間欠的な再生可能エネルギーと組み合わせれば、出力を直接電力網に供給できる。電力需要の20%未満であれば、経済への影響はあまり大きくないが、20%を超える部分を再生可能エネルギーと水素貯蔵がまかなうようになれば重要性を帯びてくる。再生可能エネルギーを水素を作るのに使うと、利用可能なときだけそれを行えばよい。そうやって水素を貯蔵しておけば、必要なときに使うことができる。ニューファンドランド島の南岸にある小さな島 (Ramea) で、2007年から5年間の計画で風力原動機と水素発生装置を使った実験が行われている[5]。同様のプロジェクトはノルウェーの小さな島 (Utsira) でも2004年から継続中である。

水素貯蔵サイクルでは、電気分解で水素を製造して液化または圧縮し、それを再び電力に変換する場合、そこにはエネルギーの損失がある[6]。これは、バイオ水素を使って93%のマイクロCHPのような燃料電池を製造し[7]、そこから電力を得る場合でも同様である。

1kgの水素を製造するには約50kWh(180MJ)の電力を必要とし、この電力消費量は発電以外の用途に水素を使う場合でも明らかに重要である。アメリカ合衆国ではピーク時以外の電気料金はkWh当たり0.03ドルであり、1kgの水素を作るのに1.50ドルの電気を必要とする。アメリカで1.50ドルぶんのガソリンを自動車で使った場合、1kgの水素を使った燃料電池と走行可能距離がほぼ同じとなる。水素ガスから燃料電池を作るには、圧縮または液化し、工場まで輸送する必要があり、これらのコストは小さいとは言えない。なお、日本の場合通常25円/kWh程度であり水素1kgの価格は1250円、夜間電力10円/kWhとすると500円程度となりアメリカと比べ非常に割高になる。

バイオ燃料

バイオディーゼル植物油燃料アルコール燃料、バイオマスといったバイオ燃料は、炭化水素燃料の代替となりうる。様々な化学プロセスを使えば、石炭、天然ガス、バイオマス、有機性廃棄物などに含まれる炭素と水素を既存の炭化水素燃料の代替となる短い炭化水素に変換できる。例えば、フィッシャー・トロプシュ法によるディーゼル燃料、メタノールジエチルエーテル合成ガスなどである。第二次世界大戦中のドイツでは石油の入手が困難だったため、これらをディーゼルエンジンに使っていた。今日では南アフリカが同様の理由で石炭からディーゼル燃料を作っている[8]。原油価格が長期に渡って35ドル以上となれば、このような合成液体燃料を大規模に製造すれば経済的に見合うことになる可能性もある(石炭参照)。このような変換プロセスにおいても、エネルギー損失がある。歴史的には石炭そのものを蒸気機関で使っていた。また、天然ガスを使った天然ガス自動車もある。

合成炭化水素燃料

実験室レベルでは、大気中の二酸化炭素を炭化水素燃料に変換できるが、何らかのエネルギー源を必要とする。産業化するには、太陽光をエネルギー源として人工光合成と呼ばれる技術を使うことになる[9][10]。他のエネルギー源としては、太陽光発電や太陽熱や原子力が考えられる[11][12]。水素に比べて体積が格段に小さい、既存のエンジン技術にすぐ利用できる、既存の燃料供給基盤をそのまま使えるという利点がある。合成炭化水素燃料の製造が実現すれば、製造した燃料を燃やすまでは大気中の二酸化炭素を減少させることができ、燃やしても製造前に比べて大気中の二酸化炭素量が増えない。燃料の消費量を上回る製造量を技術的に達成できれば、二酸化炭素による温室効果を克服することができる。なお、たとえエネルギー貯蔵を目的にしないとしても、液体燃料を使うしかない航空機の燃料として、さらには、プラスチックなどの工業原料として石油に類する人工合成物質は必要であり、炭化水素の人工合成は将来の必須技術といえる。

メタン

メタンは分子式が CH4 という最も単純な炭化水素である。メタンは再生可能エネルギーによる電力で生産可能である。メタンは水素よりも貯蔵と輸送が簡単で、燃焼方法も確立している。

まず、電気分解で水から酸素と水素を作る。

2H2O → 2H2 + O2

次にサバティエ反応によって水素と二酸化炭素を反応させ、メタンと水を作る。

CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O

メタンは貯蔵しておき、後で発電に使う。水はリサイクルして電気分解でき、それによって必要な純水の量を減らすことができる。電気分解で発生した酸素も別に貯蔵して発電時にメタンを燃焼させるのに使えば、窒素酸化物の発生を抑えることができる。メタンを燃焼させると、二酸化炭素と水が生成される。

CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O

生成した二酸化炭素を再利用してサバティエ反応を加速させることができ、水は電気分解用にリサイクルできる。するとメタンの燃焼で生じた二酸化炭素は再びメタンになるので、温室効果ガスが全く発生しない。このようにメタン製造と発電を隣り合わせて行えば、全体でサイクルを形成できる。

ホウ素、ケイ素、亜鉛

ホウ素[13]ケイ素[14]リチウム亜鉛[15]は、エネルギー貯蔵手段として提案されている。

力学的貯蔵

エネルギー貯蔵手段として、水を高い場所に汲み上げて揚水発電に使ったり、空気を圧縮したり、フライホイールを回したりという方法がある。

1kgの質量を1000m持ち上げると、9.81KJのエネルギーを貯蔵できる。これは1kgの質量を秒速140mに加速するのと等価である。これと同じエネルギーを使えば、1kgの水の温度を2.34上昇させることができる。明らかに不公平な比較だが、1m3 の安価な岩や砂でも高い場所に移動させれば、1m3鉛蓄電池より大量のエネルギーを蓄えることができる。鉄道を利用したシステムが試験されている[16]

圧縮空気の形でエネルギーを貯蔵するには夜間の安価な電力を使えばよく、圧縮空気は地下の空洞に溜めればよい。そして、電力需要のピークの時間帯にこれを解放し、普通の燃焼型タービンの排気熱でその空気を熱する。熱した空気を膨張タービンに使えば発電できる。圧縮空気エネルギー貯蔵 (CAES) 施設は1991年にアラバマ州マッキントッシュに建設され、稼動に成功している。Walker Architects は二酸化炭素ガスを使ったCAESによるエネルギー貯蔵を2008年10月24日に提案している[17]

いくつかの企業は、圧縮空気を自動車の動力源とする研究(圧縮空気車)を行っている[18]

再生可能エネルギーの貯蔵

太陽光発電風力発電といった再生可能エネルギーは、間欠的に動力を生成する。この場合、安定したエネルギー供給にするにはエネルギー貯蔵が必須である。再生可能エネルギーの普及には、電力網におけるエネルギー貯蔵、需要に対応した供給、エネルギーの変動相場制が必要となる。そういった対策を講じないと、間欠的なエネルギー源で全電力の20%から30%以上を供給することができない。電力供給の損失とコストを管理できれば、様々な間欠的な電力源を接続しても、電力網全体の信頼性を増大させることができる。

間欠的でない再生可能エネルギー源には、水力発電地熱発電集光型太陽熱発電 (CSP)、潮力発電Energy towerソーラーアップドラフトタワー海洋温度差発電高高度風力発電バイオ燃料宇宙太陽光発電などがある。太陽光発電は技術的には間欠性があるが、ピーク需要時間帯である昼間はある程度発電できる。しかし、場所によっては太陽光が最も強い時間帯と電力需要がピークに達する時間帯は一致しないことがあるため、より効率的なエネルギー貯蔵法の研究が盛んに行われている。

熱エネルギー貯蔵

熱貯蔵(蓄熱)は、後で使用するために一時的に熱を蓄えるか、または熱を除去することである。例えば、太陽熱を日中に集め、夜間の暖房などに使用する。実際にはこの逆で冷房のための蓄熱利用の方が多い。夜間の安価な電力で氷を作り、それを日中の冷房に利用するといった方式がある。

脚注・出典

関連項目

外部リンク