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アメリカ文学

American literature

アメリカ合衆国において英語で書かれた文学作品の総称。

17世紀初頭イギリス人による植民地開拓から始まるアメリカ文学の特殊性は,国家形成の歴史と広大な国土による風土の多様性,複雑な人種構成を抜きにしては考えられない。本国に対する拒否と憧憬という矛盾した感情のなかで,本国文学への従属感をぬぐいきれないまま,同時にアメリカ独自の文学を創造しようとする国民意識が高まり,やがて世界文学史上特異な位置を占めるにいたるのがアメリカ文学である。神話や叙事詩の時代を経ずに,宗教書,日記など実用的な散文から始まったこの国の文学は,長く想像文学を生み出さなかったが,アメリカ独立戦争後の文化的自立と西部発展の機運のなかから,アメリカ固有の特徴的な国民性と制度が育つに従って,社会,経済,地理,芸術面における特質を反映した文学が育っていった。テーマのなかには,広大な国土,多様な人々,フロンティア精神を背景に生まれたものもある。

初期のアメリカ文学には,ヨーロッパのものを模範とする小説と詩だけでなく,政治,宗教に関する著作も含まれていた。植民地時代の詩人では,アン・ブラッドストリートとエドワード・テーラーが,イギリスの影響を強く受けた文学性の高い詩で知られる。独立戦争初期には,ベンジャミン・フランクリンとトマス・ペインの政治的な著作が最も影響力を及ぼした。フランクリンはジャーナリストとして出発し,『貧しいリチャードの暦』と題する人気シリーズを発行した。その機知と常識を兼ね備えた警句は,植民地社会に向けた意味深長なメッセージであり,植民地とイギリス間の紛争を吟味するものであった。ペインの小冊子『コモン・センス』(1776)は独立の必要性を説いたもので,彼の著作は独立戦争期を通してアメリカ国民を鼓舞し続けた。

独立をかちとると,アメリカ独自の文学が意識的に模索され始め,19世紀初期には,風刺作品を書いたワシントン・アービングと先住民の生活を描いたジェームズ・フェニモア・クーパーが現れた。西部開拓の機運,アンドルー・ジャクソン大統領に象徴される民主主義(ジャクソン民主主義),国中にみなぎる希望と冒険の精神に多くの作家が触発され,1830年から南北戦争勃発までの間に,アメリカ文学は最初の隆盛期を迎えた。イギリス文学とは異なって,貴族ではなく平民をテーマにしたロマン主義が興り,『モービー・ディック(白鯨)』(1851)で知られる小説家ハーマン・メルビル,ホラーと探偵小説の創始者エドガー・アラン・ポー,自伝的詩集『草の葉』(1855)で進歩的で因習にとらわれない詩を発表したウォルト・ホイットマンが登場した。この時期にはほかに,詩人のエミリー・ディキンソンや,リベラルな思想家ラルフ・ウォルド・エマソン,『ウォールデン』(1854)で知られるヘンリー・デービッド・ソロー,『緋文字』(1850)などの小説を著したナサニエル・ホーソーンらの超絶主義と呼ばれる一派が現れた。

19世紀の西進運動によって文学の中心地もニューイングランドから中西部へ移り始め,地方色豊かで写実主義的な文学が生まれた。この分野に最も貢献した作家は,『トム・ソーヤーの冒険』(1876)と『ハックルベリー・フィンの冒険』(1884)でミシシッピ川沿いの生活を描いたマーク・トウェーンと,上・中流階級に属する登場人物の心理の動きを取り上げたヘンリー・ジェームズである。19世紀末に近づくと,日常の出来事を現実的に詳細に描く自然主義が登場した。この一派を代表する作家としては,『赤い勲章』(1895)で戦争の恐怖を描いたスティーブン・クレーンや,セオドア・ドライサー,フランク・ノリスがあげられる。食肉缶詰工場の内幕を暴露したアプトン・シンクレアの『ジャングル』(1906)は,自然主義の流れをくむと同時に,社会改革への熱意が込められている。

第1次世界大戦後,戦後社会に対する幻滅を描いて高い評価を得た「失われた世代」と呼ばれる一派の活躍によって,アメリカ文学は世界文学としての独自性を獲得した。代表的な小説家に,F.スコット・フィッツジェラルド,アーネスト・ヘミングウェー,ジョン・ドス・パソス,詩人にエズラ・パウンド,T.S.エリオット,ハート・クレーン,E.E.カミングズがいる。「意識の流れ」という技法の開拓者ウィリアム・フォークナーは,『響きと怒り』(1929),『死の床に横たわりて』(1930)でミシシッピ州の架空の郡を舞台に人間社会の縮図を描き,アメリカ散文の最高峰とされる。

第2次世界大戦後は,多くの傑出した作家が登場し,アメリカ文学は著しい多様性を示した。ノーマン・メーラーとトルーマン・カポーティは処女作で高い評価を獲得し,のちに「ノンフィクション小説」という分野を開拓した。黒人文学も深化をみせ,ジェームズ・ボールドウィンは,エッセーと小説で黒人の立場から人種差別と人種間の関係を描いた。ソール・ベロー,バーナード・マラマッド,ジョン・アップダイク,フィリップ・ロスは,伝統的なアメリカの価値観の衰退を吟味し,その再解釈を行なった。1940~50年代には南部文学が華々しく開花し,カポーティ,ユードラ・ウェルティ,フラネリー・オコナー,カーソン・マッカラーズが活躍した。1950年代後半の「ビート・ジェネレーション」を経たあとは,複雑な人種構成を反映し,ユダヤ系作家や黒人作家など非アングロ・サクソン系の作家による多彩な活躍が目立つようになった。ロシア生まれの小説家ウラジーミル・ナボコフの小説は,アイロニーやパロディ,斬新なことばの使い方が高く評価されている。また,ジョン・バース,トマス・ピンチョン,カート・ボネガットらの作家も,独特の作品で新境地を開いている。詩壇では 20世紀中頃から新しい技法と表現形式が現れ,ウォレス・スティーブンズ,ロバート・フロスト,ロバート・ローエル,セオドア・レトケ,ランダル・ジャレルらが活躍した。戯曲では 20世紀に入ってユージン・オニール,テネシー・ウィリアムズ,アーサー・ミラー,エドワード・フランクリン・オールビーらがアメリカ演劇を確立した。