おでん
おでん(御田)は日本料理のうち、煮物料理の一種である。鍋料理にも分類される[1]。
鰹節とコンブでとった出汁(だし)に味を付け[2]、さつまあげ・はんぺん・焼きちくわ・つみれ・蒟蒻(こんにゃく)・大根[3]・芋[4]・がんもどき[5]・ちくわ・すじ(牛すじ)・ゆで卵、厚揚げ、その他いろいろな種を入れて、長時間煮込む[6]。おでん種、つけだれの種類は地域や家庭によって異なる[7]。
「おでん」は元々、田楽を意味する女房言葉である[8]。田楽、もしくは味噌田楽は室町時代に出現した料理で、種を串刺しにして焼いた「焼き田楽」のほか、種を茹でた「煮込み田楽」があった。江戸時代になって「おでん」は「煮込み田楽」を指すようになり、「田楽」は「焼き田楽」を指すようになった[9][10](味噌田楽も参照)。
素材にもよるが、前処理として下茹でや油抜きなどした上で、つゆに様々なおでん種を入れて調理を行う。地域や店により種やつゆの違いも大きく、子供が買うような駄菓子屋から、屋台、専門店、コンビニエンスストア、比較的立派な日本料理店のメニューにまで、広く扱われている。家庭でも調理でき、家庭料理を扱う料理本にもしばしば作り方が書いてある。また、テレビの料理番組、旅行番組などで紹介されることもある。
Contents
歴史
「おでん」は豆腐料理「田楽」の異称であり、14世紀にはこの文字が見られる[11]。江戸時代、江戸では味噌田楽が庶民に親しまれ、直方体の豆腐を串に刺したものを焼いてから味噌を付けて食べるものが江戸名物となっていた[12]。1782年 には『豆腐百珍』が発行され、豆腐田楽が絵図に記載されている[13][14]。
平凡社大百科事典(第三巻:1943年)によれば菜飯に田楽を添えて提供する「菜飯田楽」は寛永の頃から流行をはじめ、まもなくこんにゃくの田楽が登場し、これがオデンの略称で呼ばれるようになったとする。「浪花の風」[15][16]によれば「この地(上方)にても、蒟蒻の田楽をおしなべておでんと呼ぶ」とある。この頃のこんにゃくおでんは味噌田楽であったが、菜飯田楽の流行から煮込みのこんにゃくがつくられ「煮込みおでん」と言われたものが、むしろこちらが名前を奪い煮込み野菜類にハンペンや信田巻きなども加えて広くおでんと呼ばれるようになったとする[17]。1837年ごろの 『守貞謾稿』には、「上燗おでん」という振り売りがあり「酒燗と蒟蒻の田楽であり、江戸のものは芋の田楽も売る」と紹介されている[18]。
江戸時代初期、江戸の市場に入津する醤油の多くは上方からのものであり、享保期の調査によれば70%以上が上方のものであった[19]。これが1800年代に入ると江戸市場周辺の地廻り経済圏から供給される醤油の比率が高まり、幕末の1856年には上方醤油は5.6%となった。 元禄期に銚子ではじまった醤油醸造は[20]、やがて江戸経済圏の発展とともに香りと味の良い醤油を盛んに供給するようになり、削り節に醤油や砂糖、みりんを入れた甘い汁で煮込んだ「おでん」が作られるようになった。外食産業が盛んであった江戸では、「おでん燗酒、甘いと辛い、あんばいよしよし」の掛け声で売る「おでん かんざけ」と書いたのれんを掲げたおでんの振売や屋台が流行した。このころには、「ハンペン」も種として使用されるようになった。江戸ではかつお節の削り節が利用されるようになっていて、昆布と合わせて出汁とされた。日本橋室町界隈は魚河岸が近く、その後に移転した「築地」にかけて、創業元禄元年(1668年)の老舗店が存在している[21]。『日本食物史』には、戦後の闇市で「うどんやカストリ、おでん」を売っていると記述されている。
上方では、田楽が「お座敷おでん」として客座敷に出されるようになったが、種を昆布だしの中で温めて甘味噌をつけて食べる「焼かない田楽」[22] と区別するために「関東炊き/関東煮」(かんとだき)と呼んだ。その後の関東煮は、昆布・クジラ・牛すじなどでダシをとったり、薄口醤油を用いたりと、関西風のアレンジが加えられていった。これを「関西炊」と呼ぶ人もいる[22]。大坂の天満ではタコを甘辛く煮たものが人気となっておりこれを「関東煮」と呼んでおり、おでんに対する関東煮の語源については「かんとうふ煮」説や中国広東の煮込み料理[23]に由来する「広東煮」説もある[24] が定かではない。
一説には関東煮は当時「改良おでん」とも呼ばれ、東京・本郷の「呑喜」主人が1887年に西洋料理のスープを活かし、汁気のなかった従来のおでんをたっぷりのつゆで煮たことがはじまりともいう[25]。1937年(昭和12年)発行の大日本帝国陸軍調理教本「軍隊調理法」では、がんもどき・こんにゃく・大根・里芋・竹輪麩を、削り節・醤油・砂糖のダシで調理するおでんが「関東煮」と表記されており、田楽とは別となっていた。
東京でも明治時代には「おでん茶飯」の屋台が人気であったが、大正時代の関東大震災(1923年)で大きな被害を受けた。震災の復興過程において関西から関東へ職人の行き来があり、関西風の「関東煮」が関東に逆輸入され[22]、それまで関東では使用されなかった味付けやおでん種が広がる事になった。これにより、現在の東京の老舗おでん店でも関西風の薄味を伝統とする例がある。1943年刊行の平凡社大百科事典では「蒟蒻の田楽及び煮込の蒟蒻類の名」としており[26]、この当時はこんにゃくに重点があったものと考えられる。
あらかじめ煮込んでおけば提供できるおでんは、日本全国に広がり、屋台・居酒屋・駄菓子屋などで親しまれて家庭の定番メニューともなっていった[22]。さらに、1980年代から全国に広がったコンビニエンスストアで冬期限定商品として扱うようになり、さらに一年中食べられるように変化して、より身近な存在となった。
提供・販売 形態
- 江戸時代の振売
- おでん屋
「おでん屋」と称される小さな一杯飲み屋で酒の肴として供されていることが多い。 2014年時点で住民一人当たりのおでん屋の店数が日本一の地域は金沢(金沢市)である[27]。
業務用の《おでん鍋》の多くは四角形で内部は具材ごとに入れることができるよう間仕切りが設けられており、熱源としてはガス式(直火式あるいは湯煎式)と電気式がある。
- 屋台
かつては、屋台の「おでん屋」が夜になると町中に店を出して酔客の憩いの場となっていたが、1980年代以降は減少してきた。2016年以前までは横浜駅西口では帷子川沿いに10軒程度のおでん屋が軒を連ねる「おでん屋台」が名物となっていたが、2016年1月末で退去した[28]。
- 店先
また駄菓子店や食堂などの店先におでんの大鍋を置き、七輪やストーブなどで日がなぐつぐつと煮込んでいる素朴な風景も方々で見られたが、1980年代以降は廃れていった。
- コンビニエンスストア
上述の店先での煮込み風景は、現在では、コンビニエンスストアのレジ脇での煮込みとして行われている。
1979年にセブン-イレブンがおでんの取り扱いを開始[29] して以降、コンビニエンスストアが電熱式のおでん鍋を置いておでんの煮売りをするようになった。これは一般にも好評で、日本全国のコンビニに広く浸透し、セブン-イレブンでは年間2億7700万個のおでん種が販売されるという(2011年度)[30]。かつては冬期など一部期間のみの取り扱いであったが、消費多角化への対応から、一年中コンビニでおでんを取り扱う傾向が強まっている[31]。販売促進活動が8月中盤以降から徐々に行われ[31][32]、10月から11月にかけて販売のピークを迎える傾向となっている[32]。コンビニのおでんつゆは、関東風よりも関西風の味付けが主流である。これは、関西風だとつゆの色が薄いために客が具材をよく見て選ぶことができ、また薄味でおでんの匂いが店内に広がらないからだという[30]。
- スーパー、食料品店 ほか
缶詰として天狗缶詰などが「おでん缶」を製造しており、店舗や自動販売機で売られている[33]。 包装技術の改良によって、1990年代より、煮込み済みのおでん種をつゆごと透明なラミネートフィルムの袋を用いてレトルトパックにした商品も多く売られるようになった。
また、変り種として、冷たくして食べることを前提に汁をゼリー状にした「冷やしおでん」が夏期向けの商品として鈴廣かまぼこや天狗缶詰から発売されている[34]。類似の商品はデパートなどのデリカテッセンでも製造販売される例がある。
家庭料理
家庭で料理することもさかんに行われている。料理番組などで、料理人などから、おいしいおでんにするためのコツや技のようなものが紹介されることがある。しばしば紹介されるコツのひとつは、さっと煮た後にいったん冷まして、その後ふたたび暖めると味がとてもよくしみこむ、というものである。鍋を蓋をした状態で屋外(マンションならばベランダ)などに置いて十分に冷やし(冬の外気は低く、30分ほどでだいたい冷える。外気温が十分に低いので、面倒ならば一晩放置しておいてもいたまない。冷蔵庫に入れたような状態になる。)、それを室内にとりこんで、また火で暖める、というものである。
NHKの『あさイチ』では、家庭でおでんを作る時の、食材ごとの下ごしらえのコツを数度ほど紹介したことがある。例えば、卵は、前日に「ゆで卵」と「だいこんおろし」をつくり、それらを一緒にポリ袋(zip袋など)に入れて一晩冷蔵庫内に置いておく、という技である。そうすると卵の表面(卵白)のたんぱく質が、だいこんおろしが自然に含む酵素によって適度に分解され、柔らかく仕上がり、煮込みによって味がしみこみやすくなる[35]。各食材ごとに、さまざまな技が紹介された[注 1]。
また、美味しいおでんスープを作る裏技として、オイスターソースを隠し味に使う(通常のつゆに加える)、というものがある[35]。
代表的なおでん種
地方により使用される種の特色があるが、紀文の「家庭の鍋料理調査:好きなおでんベスト10全国版」では、大根・たまご・ちくわ・こんにゃく・はんぺん・厚揚げ・さつま揚げ・餅入り巾着・ごぼう巻・じゃがいもの順となっている。
ほぼ全国共通で用いられるおでん種
- 大根 - 厚切りにして皮を剥いたもの。「おでんの王様」とよばれる。
- ゆで卵 - 鶏卵やウズラの卵
- 昆布 - 出汁を取った後の昆布を取り出し、結んで種として活用する。
- コンニャク - 黒・白の板状に加え、ひねったものや青海苔・ごま・ゆず・一味などの団子状の物もある。
- しらたき - 結んで食べやすい形にする。
- ちくわ - 九州などでは種類が異なる。
- 厚揚げ・生揚げ
- がんもどき - 「がんも」とも略される。
- 巾着 - 油揚げの中に餅等の材料を入れ、かんぴょう等で口を縛った物。「ふくろ」とも略される。
地域、店舗、好みによって使用されるおでん種
- ちくわぶ - 小麦粉を原料とし、ちくわ型に成形したもの。関東と東北が多い。
- スジ肉 - スジ肉のぶつ切りを串に刺したもの。牛のスジ肉が主であるが、中部地方の一部などでは豚を用いることもある。西日本が多い。
- ニンジン
- サトイモ・海老芋
- じゃがいも - 皮を剥いて、丸ごと、または一口大に切る。
- ギンナン - 4 - 5粒程度を爪楊枝に刺して種とする。
- タケノコ
- ロールキャベツ
- キノコ - シイタケ、マイタケ、ブナシメジ、エリンギなど。
- 豆腐 - 主に焼き豆腐が用いられる。「しろもの」「おかべ」とも呼ばれる。
- 高野豆腐
- かまぼこ - 中国地方など。色の赤いものが好まれる。
- 信太巻 - 野菜などを油揚げやゆばで包む。信田巻とも。
- 厚焼き - 焼き蒲鉾の一種で原料に玉子が含まれる。
- つぶ貝、バイなどの巻貝類。串に刺して用いられる。
- タコ - 足の部分を用いるが、おでん種としては、小さいイイダコが丸々串に刺さっている場合も多い。
- ソーセージ - 洋風おでんとして扱っている店もある。沖縄ではホットドッグ用のフランクフルトも一般的。
- 鶏肉 - 手羽先など骨付きの部位が用いられることがある。
- トマト - 主に1つ丸ごと使う。おでん専門店などで見かけることがある。
- うどん - 2010年からファミリーマートのおでんであつかわれるようになった。
- 揚げかまぼこ - 地域によってさまざまな名称やバリエーションがある。関東以北では「練物」、西日本では「揚物」「天ぷら」、沖縄では単に「かまぼこ」と呼ばれる場合が多い。
- 薩摩揚げ
- つみれ - 魚のすり身に鶏卵や澱粉などを加えた肉団子状の練り物。
- つくね - 鳥肉などのミンチに鶏卵や澱粉などを加えた肉団子状の練り物。
- 平天
- 丸天(ボール天)- 主に関西地方で使われる。
- 野菜天- 細かく切ったにんじんやごぼう、えんどう豆などが含まれる。
- れんこん天
- ゴボウ巻き(ゴボ天) - ゴボウの入ったちくわ状のさつま揚げ。
- じゃこ天 - イワシの稚魚のすり身で作った長方形状の練り物。
- イカ巻き
- エビ巻き
- ウィンナー巻き
- 玉子巻き(ばくだん) - 鶏卵やうずら卵を巻き込んださつま揚げ。
- 真薯揚げ(しんじょあげ・しんじょうあげ) - エビのすり身に卵白と混ぜて揚げたもの。同様に海老の代わりにイカ・かに・ほたてなどを用いたものもある。
- シューマイ巻き
- 餃子巻き - 餃子を白身魚のすり身で筒状に巻いたもの。関東、東北に登場し、遠く離れて福岡でも見られるおでん種。発祥は東京の蒲鉾屋の蒲一とも愛川屋とも言われている。
- シューマイ
地域性の強いおでん種
- 北海道・東北地方
- 山菜
- 野菜
- 魚介類
- 揚げかまぼこ
- マフラー - 北海道独特の練り製品。長方形の分厚いさつま揚げ。
- 大角天 - 長方形のさつま揚げ。主に青森で食べられる。
- 牡丹ちくわ - 焼き上がりが牡丹のような鮮やかな斑柄になった竹輪。主に青森で食べられる。
- 関東地方
- はんぺん - 白身魚のすり身に山芋を加えて蒸したもの。四角いものを二つに三角形に切る。しぼんでしまわないように、出汁が染み込むようにするのは難しい。
- 筋蒲鉾(すじ) - 鮫の軟骨を含む白身魚の練り物の一種。独特の食感がある。
- 静岡県
- 黒はんぺん - 静岡おでんに入れる焼津を中心として作られる魚の練り製品。大半の製造会社では鯖をメインに使い鰯などをブレンドしている。一部の会社では鰯だけを使い、大々的に宣伝していることから、静岡県内でも鰯がメインと認識している人が多い。いずれも灰色をしており前述のはんぺんを「白はんぺん」と呼んで区別して呼ぶ。
- カツオのへそ - 鰹の心臓のこと。串に刺して用いる。焼津地方に特有。焼津港は鰹の水揚げ量において国内随一で、鰹のアラが比較的簡単に手に入るため、おでん種としても使われるようになったと見られている。
- なると - 駄菓子屋や飲み屋のおでんで見られ、静岡県焼津市では現在も定番として使われる。
- 豚モツ
- 長野県
- 蕎麦 - 短めのそばきりやそばがきにして用いる。ねぎ味噌を包んで団子状にするところもある。
- 東海地方
- 豚バラ - 角切りにした豚のばら肉。
- どて串 - 豚もつを串に刺したもの。名古屋を中心とする味噌味のおでんによく用いられる。
- 角麩 - 波状の模様がある生麩。愛知県尾張地方、岐阜県美濃地方で食べられる。
- 近畿地方
- コロ - 鯨の皮から鯨油を絞った残りを乾燥させたもの。
- さえずり - 鯨の舌。鯨由来の種は、以前は関西のおでんには欠かせないものだったが、商業捕鯨禁止以降は珍しくなった。
- 梅焼き - 魚のすり身に卵と砂糖を加え梅形に整形して焼いたもの。食味ははんぺんに似る。
- 湯葉、生麩 - 京都を中心に用いられる。
- ほねく - タチウオを骨ごとすり身にしてさつま揚げ状に揚げたもの。和歌山を中心に用いられる。
- 北陸地方
- 加賀巻 - キャベツを中心とした野菜をさつま揚げ状に揚げたもの。同様に紅生姜・枝豆・タコ・ゲソ等をそれぞれさつま揚げ状に揚げたものもある。
- 赤巻き - 鳴門巻きのように赤い渦巻き模様を付けた魚肉練り製品。
- ふかし - 魚肉練り製品の一種で、蒲鉾の材料のように白と赤く色付けしたすり身を円盤状に蒸して作る。
- くるま麩 - ちくわ型の焼き麩の一種。新潟・北陸ではおでん種として用いられる。
- かに面(かにめん) - 香箱ガニ(ズワイガニのメス)の甲羅にほぐしたかにみそ、かに肉を詰めた物。金沢発祥。
- 四国地方
- 九州地方
- 馬すじ - 馬のすじ肉。熊本おでんの定番である。
- 小判型のつきあげ(さつま揚げ )- コンビニが鹿児島へ入ってくる以前は、牛蒡巻などの代わりに入っていた。
- 大豆もやし - 鹿児島天文館の吾愛人(わかな)などの高級居酒屋のおでんに良く見られる種。
- 骨付き肉(豚骨) - 豚骨料理の郷土料理があり、豚(もしくは鶏)の骨付き肉。
- 沖縄県
- ティビチ - 豚足。沖縄おでんの中心となる食材で、スープの味の決め手でもある。煮たものをさらにフライパンでカリッと焼いて出す店もある。
- ソーキ - 豚の骨付きあばら肉。伝統的な具材ではないが、近年コンビニエンスストアのおでんに入るようになった。
- 野菜 - シマナー、レタス、ウンチェバー、小松菜、ホウレンソウなどをおでんのつゆにさっとくぐらせたもの。
- そば - 沖縄そばの麺。
各地のおでん
一般的には、東日本では多くの削り節と昆布を使用し、関西北陸は昆布、中国四国は煮干しや焼きあごを使用する。また、使用される醤油が違う事もあり、東日本では濃口しょうゆの濃い色のダシと薄い色のものが混在しており、西日本では薄口しょうゆが使用されるため、色合いが異なってくる(塩分濃度は醤油の色の濃薄とは無関係)。しかし、おでんの発展には複雑な経緯(前述)があったために、様々な出汁が使用されたり、関西でも濃口醤油を用いたりすることがある。
薬味は全国的に練り辛子が主流だが、味噌だれやネギだれなどを用いる地域もある。
北海道
北海道のおでんは、2種存在する。現在、一般的な物は、北海道産のコンブを用いた薄い醤油味。地域特色として海の幸(コンブ・タチ(タラの精巣)・カニ・ツブなど)・山菜(フキ・ネマガリダケなど)がある。縁日の屋台・海の家・雪祭りの飲食店の定番品である生姜風味の甘辛い味噌だれを串おでん(ダイコン・揚げかまぼこ(角天・マフラーなど)・白こんにゃく・ゆでたまご)にかけたものがある。串おでんの種は、出汁ではなく水で茹でた物に味噌だれをかけた単純なものである。
以前は、手軽に食される串おでんが主流であったがコンビニのおでんの登場により薄い醤油味のものが定番となった。別添えに生姜味噌・和からしの小袋が付属する。現在、生姜風味の甘辛い味噌だれをかけた串おでんは、コンビニおでんでは、販売されない(但し、味噌味の串おでんのレトルト品は、存在する。ファミリーマートでは、「ちび太のおでん」(おでん串)は販売される)。
青森県青森市
青森市を中心に津軽地方では、ツブ貝、ネマガリダケ、大角天(薩摩揚げの一種、薄くて大きい四角い形が特徴)などの青森独特の種に、ショウガ味噌ダレをかけて食べる。2005年には「青森おでんの会」が発足し「B-1グランプリ」へ出展した。なお、青森おでんの会は、10月10日を「おでんの日」としている。
関東
神奈川県小田原市
小田原市では、2003年に地元名産品である小田原蒲鉾の消費拡大を狙うべく、2003年に「小田原おでん会」を発足させ、名物料理となっている。梅味噌を付けて食する。
静岡県静岡市
静岡市のおでんは濃口醤油を使い鶏ガラ(および牛すじ)でだしを取った長年継ぎ足しの黒いつゆを使用する。静岡おでんの人気種であるはんぺんは焼津を中心に静岡県内各地で作られている黒はんぺん、すべての種に竹串を刺し、「だし粉」と呼ばれるイワシの削り節や鰹節、青海苔をかけて食べる。
これは「静岡おでん」と呼ばれ、発音は静岡市周辺での「静岡」の読み方にならって「しぞーかおでん」である。この呼び方をセールスポイントにしている店や書籍も多数存在している。佐藤浩市が出演した「キリン一番搾り」キリンビールのテレビコマーシャルで取り上げられたことから全国的に注目され、一種のブームにつながった。2007年には「静岡おでんの会」という団体が「B-1グランプリ」という食の祭典に静岡おでんを出展し、3位となった。
葵区にはおでん店だけが軒を連ねる飲食店街「おでん横丁」があり、各店舗で味や具材を工夫している。また、旧清水市内を含む静岡市内にある多くの駄菓子屋でもおでんを販売している。「静岡おでん」は季節を問わず食されており、例えば夏場のプールなどでも販売され、店によっては冬場より売り上げが多いところもあるという。このように静岡市周辺においてはおやつ、酒の肴、おかずと幅広く食されている。
また年に一度、「しぞーかおでんフェア」(2010年に「静岡おでんフェスタ」から改称)が開催されており、人気投票が開催されるなど盛り上がりを見せている。最近では日本各地のおでんや、韓国、台湾などのおでん等も紹介している等、イベントで楽しめるおでんの幅が広がりつつある。
さらに最近では静岡県内のみならず、東京都内やバンコクでも静岡おでんが味わえる店が開店するなど、静岡おでんが食べられる地域も広がりつつある。
「静岡おでん」は旧清水市内を含む静岡市とその周辺で主に食されていたものであり、文化圏外である県西部の浜松市や、県東部の沼津市、熱海市などでの知名度や認知度は極めて低かったが、先述のテレビコマーシャルなどにより西部や東部・伊豆などでは全国的な知名度上昇と時を同じくして知名度が上がり始めた。
なお県西部で愛知県などと同様に通常のおでんそのものがおでんとは呼ばれず関東煮(かんとに)と呼ばれ、おでんといった場合は味噌おでんや味噌田楽を指す。詳細は#東海を参照。
長野県
おでんの具と共に、蕎麦(そばきり、そばがき)を煮込む。よって出汁は関東風のコクがある出汁が主流であった。しかし前述の通り、時代とともに出汁が関西風味へと変遷されたことで風味が合わなくなってしまったせいか、現在ではあまり見られない食され方である。
長野県飯田地方
一般的なおでんに、甘辛いネギダレ「信州飯田のねぎだれ」(みじん切りにしたネギを醤油に漬け込みネギのエキスにより粘り気の出たタレ)をかけて食べるもので、豆腐の種も良く食べられる。このネギダレは、長野県地域で蕎麦がおでんの種に用いられた頃に薬味として使われていたネギの名残であるとされ、他の料理にも使用されている。
富山県
塩と昆布やかつお節でとっただし汁に、玉子、大根、焼きちくわ、焼き豆腐、かまぼこ、すりみなどを入れて煮込み、「白とろろ昆布」や練りからしを添えて食べる。昆布の消費量(一人当たり)日本一の県として、この「白とろろ昆布をのせて召し上がる」を「富山おでん会」としては、「富山おでん」の定義にしているが、富山県で一般的に食されているというわけではない。 メニューにおでんがあるラーメン店の存在も富山県の特徴である。
その他の珍しい種としては、あんばやし(薄切りコンニャクの串刺し)や、すす竹(細竹)、白えび入りのつみれなど。
石川県
昆布と煮干のだしに金沢大野の醤油を加えて薄味のつゆとするのが金沢流のおでん。一方、能登では風味の強い魚醤のいしるも使われる。いずれも冬だけでなく、夏も親しまれている料理。牛すじ、大根、玉子などの一般的な具の他、魚肉のしんじょ、ばい貝、車麩、赤巻き、ふかし、かに面、肉いなり、玉子巻きなどの特徴的な具材がある。白味噌におろし生姜を加えた生姜味噌を用意する店もある。
東海
愛知県とその周辺地域(岐阜県美濃地方、静岡県西部など)では醤油味の汁のおでんについては「関東煮(かんとに)」と呼び、おでんといえば味噌おでんや味噌田楽を指していた。
この「味噌おでん」は地域によって多少の差はあれど、八丁味噌をベースとした甘めの汁でダイコン、こんにゃく等の種を煮込む。味噌の煮汁には豚のモツやバラ肉を入れてどて煮にしたり、味噌カツのたれにされることも多い。また、だし汁ではなく湯で茹でた後、味噌をつけて食する味噌田楽(正確には煮込み田楽)もある。つける味噌は五平餅同様の甘味噌である。
また、種でも薩摩揚げのことを「はんぺん」と呼ぶことが一般的だったが、最近ではテレビメディアや全国展開するコンビニなどの影響で、関東煮(かんとに)をおでんと言うことが増え、わずかながらも薩摩揚げとはんぺんを区別するようになった。
名古屋のコンビニのおでん販売では、普通のおでんを売る店、味噌おでんを売る店、両方を売る店の三種類がある。一般に、中規模以下のコンビニで味噌おでんを扱う場合が多い。両方を売る店では、同じ大きさの容器で売る店もあれば、場所の関係上、普通のおでんの容器の一部分に味噌おでんの容器を置き、一品か二品程度を売る店もある。具は、しらたき(糸こんにゃく)、大根、(焼き)豆腐、卵、牛すじ等が多いが、普通のおでんと全く同じ具を扱う店もある。普通のおでんを買う場合も味噌だれの小袋が付く場合がある。
兵庫県姫路市
しょうが醤油に付けて食べる[37]。きざみネギを散らすこともある。
香川県
おでんには白味噌ベースの甘い味噌だれ、黄色いからし味噌などを添える。「うどん店」では、必ずと言っても良いほど副食としてセルフサービス販売されている。
愛媛県
からしの代わりにおでん用の味噌を付けて食べる。また、県内の一部の地域ではうどん屋やラーメン屋の店内でも提供される。店内にあるおでん鍋から客が自由に取って(店側が取ることもある)、うどんやラーメンのでき上がりを待つ間に食べられている。
沖縄県
沖縄のおでんは、てびち(豚足)をメインとしており、旬の葉物野菜が添えられる。コンビニでは本土と同様の一般的なおでんと共にてびちやソーキもおでん種として採用されている。また、おでんに沖縄そばを入れる例もしばしばみられ、沖縄ファミリーマートやローソン沖縄では「おでんそば」も販売されている。薬味には他の地域で一般的な和からしではなく、アメリカ製のマスタードが用いられることも多い。
その他
「京風おでん」「京おでん」という名称で、淡口醤油を使用したおでんを出す店がある。 コンニャクのみを種とする「こんにゃくおでん」・「味噌おでん」があるが、だし汁ではなく湯で煮込んで熱くしたコンニャクに甘い味噌ダレを付けて食べる煮込み田楽である。
日本国外のおでん
日本独自の食べ物であるが、日本統治時代に台湾や朝鮮半島に広まった。
中華圏では、「黑輪」(主に台湾。台湾語で発音すれば「オーレン」。)、「熬点」(主に中国大陸/「Aódiǎn」と発音し、煮込んだ(熬)点心(点)の意。)、「關東煮」(中華圏全体)などの表記で広く売られており、日系コンビニチェーンなどを中心に、日本風(日式)をアピールするために「関東煮」と新字体の表記も確認できる。中華圏のコンビニエンスストアや屋台では、串に刺し、使い捨てのコップに入れ、箸を使わずに食べるスタイルで売られていることが多い。
韓国では、「오뎅, 어묵」(オデン, オモク)=練り物、特に薩摩揚げそのものを指す言葉に変質しており、日本同様に一般的な食材として食べられている。オデンの屋台では、日本のようにさっぱりしたスープで串に刺した薄い薩摩揚げを煮込み、薬味醤油につけるなどして食する。釜山では「釜山オデン」という名物もある[38]。
タイ・台湾の日系コンビニエンスストアでもほぼ日本と同じスタイルでおでんが多く売られている。
フランス語版Wikipediaでは、フランス料理のポトフに料理法や社会的なポジションが類似した料理としておでんを挙げる。
脚注
注釈
- ↑ 同番組で紹介された各食材ごとのコツはネット検索をすると、まとめて紹介しているサイトがいくつか見つかる。
出典
- ↑ 日本大百科全書(小学館)おでん、の項。
- ↑ 世界大百科事典(平凡社)おでん、の項。
- ↑ 大辞泉(小学館)おでん、の項。
- ↑ 日本国語大辞典(小学館)おでん、の項。
- ↑ 日本大百科全書(小学館)おでん、の項。
- ↑ 世界大百科事典(平凡社)おでん、の項。
- ↑ 新井由己 『日本全国おでん物語』 生活情報センター、2005年
- ↑ 日本国語大辞典(小学館)女房言葉、の項
- ↑ 新明解国語辞典(三省堂)第7版。おでん、田楽、それぞれの項を参照。
- ↑ 丸善食品総合辞典 P.164
- ↑ 中嶋恭三「豆腐と調理」(調理科学 1977.09.20 )[1][2]PDF-P.2 「14世紀になると(中略)田楽、おでん、村田楽などの文字もあり、当時の調理は田楽が主体であったらしく且つ冬の食べ物であった」
- ↑ 真崎稲荷境内には、田楽茶屋が8軒並んでおり、そのうちの「甲子屋」は滝沢馬琴が贔屓にする人気店
- ↑ 曽谷学川(醒狂道人何必醇)、『豆腐百珍』、コマ番号63、天明3年。
- ↑ 曽谷学川は京都・大阪の篆刻家。
- ↑ 大阪町奉行の久須美祐雋が安政3年(1856)頃から文久3年(1863)の頃に書いたとされる随筆
- ↑ 直接の引用は平凡社大百科事典(第三巻:1943年)
- ↑ 平凡社大百科事典(第三巻1943-1944)「オデン」[3]P.151
- ↑ 喜田川,季荘、『守貞謾稿』、コマ番号41、巻6(生業)。
- ↑ 長谷川彰「醤油醸造業史研究の回顧と展望」(桃山学院大学経済経営論集.1992.03)[4][5]PDF-P.12-13
- ↑ 長谷川彰「醤油醸造業史研究の回顧と展望」(桃山学院大学経済経営論集.1992.03)[6][7]PDF-P.12-13
- ↑ 興津要、『江戸味覚歳時記』、時事通信
- ↑ 22.0 22.1 22.2 22.3 奥村彪生. “歴史:おでんの歴史とこれから”. 【おでん】教室 紀文アカデミー. 紀文食品. . 2015閲覧.
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- ↑ “関東煮・おでんの歴史”. たこ梅. . 2015-2-13閲覧.
- ↑ 平凡社大百科事典(第三巻1943-1944)「オデン」[8]P.151
- ↑ NHK BS『新日本風土記』「金沢」
- ↑ “ビブレ前のおでん屋台は完全に姿を消したのか? 後編”. はまれぽ (2016年3月1日). . 2018閲覧.
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- ↑ 30.0 30.1 1日1000個売れるコンビニおでん つゆはなぜ「関西風」か、週刊ポスト2012年11月16日号、NEWSポストセブン、2012年11月11日配信、2012年11月12日閲覧。
- ↑ 31.0 31.1 勝矢和紙(プレスラボ) (2009年4月21日). “マイナビニュース”. 株式会社マイナビ. コンビニで中華まんやおでんを発売する時期って決まってるの? オリジナルの2015年12月22日時点によるアーカイブ。
- ↑ 32.0 32.1 笠井清志 (2009年1月28日). “おでんが最も売れる時期は、冷え込む1〜2月ではない”. BizCOLLEGE(日経BPnet). 日経BP社. . 2015閲覧.
- ↑ 「おでん缶」-インパクトの強い缶詰を開発する|飲食品でヒット商品をつくる|J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] - 中小企業基盤整備機構、2016年5月20日閲覧
- ↑ この夏、「冷やしおでん」がブーム!? エキサイトニュース 2006年8月10日
冷やしおでん缶デビュー! ゼリー状スープを検証! ASCII.jp 2008年7月17日 - ↑ 35.0 35.1 NHK『あさイチ』おでん特集回。[9]
- ↑ 職人が究めたおでんの哲学 男の夜遊びライター大脇克浩
- ↑ 姫路おでん公式サイト
- ↑ モランボン薬念研究所韓国の食文化 キーワードで見る食文化
参考文献
- 菊地武顕 『あのメニューが生まれた店』 平凡社、2013-11。ISBN 978-4582634860。
- 『丸善食品総合辞典』 五十嵐脩、丸善、1998-03。ISBN 978-4621044513。